小説 「スパイ」
小説 スパイ 山本 遥香 「はっはっはっはっは。やっぱり今の時代、楽が一番だよな。」 今から約3年前のこと。三村卓也はまだN社働いていた。自分の家庭があって、毎日必死で家族のために働いた。毎日疲れて帰ってきてもこどもの寝顔を見るたびに安らいだ。お金に目がくらむようなやつでもなかった。そんなある日、ことは突然変わってしまった。 いつものように朝起きて朝食を食べ、お弁当をもらって出勤すると、なぜか社員は皆泣いている。一歩一歩自分の机に近づくたび心臓が高まる。エレベーターは階段を使ったほうが早いぐらいゆっくりだった。やっとついたと思ったら机の上にはダンボールがおいてある。何が何なのか状況が理解できなくて隣の斉藤さんにいわれてやっとわかった。 「私たち、今から荷物をまとめてすぐに会社を出なきゃいけないの。これからすぐに警察が来る。三村さんも早く荷物をまとめて出たほうがいいよ。」 「え??なんで?」 「実は上のほうの人たちがお金を悪いように使ってたらしくて、今まで会社がうまくいっていたように見せかけて、本当は去年あたりからどんどん会社の株も下がってたらしいの。」 斉藤さんは泣きそうになりながらもこの状況を説明してくれた。頭がガンガンして目の前がぐるぐるする。今考えられるのは・・・家族の事だけ。これからどうしよう。こんなこと妻にも言えない。まだ子供も5歳だし、もし実家に帰るなんて言い出したらどうしよう。何もかも失ってしまったらどうしよう。 荷物をまとめ終わっても頭の中はそのことでいっぱいだった。