小説 無題
小説 無題 府川 耕大 「お兄ちゃん、お腹空いたよ」 公園からの帰り道で勝男(かつお)は勝(まさる)に訴えた。 「家に帰ったら、昨日の残り物があるよ」 僕達はよく夏休み中には一日中ずっと公園で遊ぶ事が多い。 アパートに着き家の中に入る。そこには古い6畳ほどの部屋がある。僕は1畳のキッチンに入り、昨日の残り物を冷蔵庫から取る。電子レンジに入れ、はしやコップを引き出しから出す。僕の家は小さいトイレに4畳の部屋しかない。夜ご飯の準備を終えテーブルの前で待っていたら、お父さんの浅野 正勝(あさの まさかつ)が仕事から帰って来る。 正勝は朝の5時にアシックスの靴工場に出勤して、夜の8時に帰宅する。月、火、水、木、金、土曜日に13時間働き、日曜日には息子たちとの時間を取るために朝5時から1時、7時間働いている。自給はそんなに高くないが毎日長く働く理由がある。それは彼の妻で勝と勝男のお母さんは交通事故で亡くなっているからだ。家族で特別の外食への途中で車と衝突した。運転していた正勝と勝は無事に助かったが、お母さんと勝男は助かっていなかった。白い座席が赤く染まっていた。お母さんは頭から血が出ていて、倒れこんでいた。勝男の足から血が出ていて、立てる状態でなかった。すぐに救急車を呼んでお母さんと勝男を病院に送った。医者は弟が助かったと言い僕とお父さんはとてもうれしくて互いを抱きしめた。けれどその後医者は、お母さんが亡くなったと言った。僕はその時8歳であり、弟の勝男は5歳だった。その日からお母さんなしで男3人だけで、暮らすことになってもう5年たった。