【生徒作品】高瀬 華子 10歳

「消された自分」

町を一望できる小高い山の上の神社にあるその石に、名前を書かれた人は消えてしまう。そんな噂がこの町にあることを3年前に東京から越してきた弥生は知らなかった。

 

弥生は平凡な日々を送っていた。学校では毎日勉強が苦手な如月にノートを貸していた。ある日、学校で算数のテストをうけた。算数は5年生の彼女にとって一番苦手な教科だ。しかし、今回の単元は算数の中でも彼女が一番得意な計算問題だ。彼女の隣にはクラスで一番算数が得意な皐月だ。無事、テストは終わり授業も終わった。するとまた如月が来てこう言った。

「おい、弥生、ノート貸してくれ。今度はちゃんと返すから。」

そう、如月は昨日、弥生からノートを借りて失くしてしまったのだ。

「おねがい、本気でお願い。お願いします。お願いします。」

いつまでたってもやめなそうもないので弥生は仕方なくノートを渡した。

「絶対返してよ。」

とついでに言った。

 

次の日、先生が採点した昨日のテストが返された。

「点数が悪いほうから名前を言ってくから取りに来い。」

クラス全体がざわめいた。

「・・・・・・・・・皐月、96点」

「やった!」

「弥生、96点」

「え、嬉しい!」

弥生がテストを取りに教壇の上に上がった時、先生に

「放課後、職員室な」と言われた。

「え…」

今日は如月に無事ノートを返してもらった弥生はご機嫌だったのに、少し嫌な気持ちになった。

 

コンコンコン

放課後、弥生は職員室に向かった。

「失礼します。」

「はい。座りなさい。」

弥生は先生と向かいの椅子に座った。そしたら、テストを目の前に突きつけられた。

「これを見ろ。」

「はい、」

「皐月とお前の点数が一緒だ。点数だけだはなく、正解している所、間違っている所もいっしょだ。」

弥生はゆっくり頷いた。

「カンニングしただろ。」

「え?」

「皐月のテストをカンニングしただろ。」先生はテストを叩きながらいった。

「いや。してないです。」

先生はため息をつき、

「正直に答えなさい。」と言った。

「いや、してないです。本当に。」

「じゃあなんで一緒なのだ?」

「たまたまかもしれませんし、皐月が私のテストをカンニングしたかもしれないし。」

「いや。彼女の成績から考えて絶対に違う。正直に言え!」

「ほんとに違います。」弥生は今にも泣き出しそうだった。

そうすると先生はまたため息をつき、

「親にも電話しておいた。」と悲しそうに言った。

「え?」

「うん、以上だ。」

「え、ちょっと待ってくださいよ。私本当に・・・」

「帰りなさい。」先生の声は震えていた。

弥生はもう、何も出来ないので家に帰った。

 

家に帰ると、ダイニングテーブルに険しい顔をした弥生の母が座っていた。

「ただいまー。」

「弥生、こっちへ来なさい。」

「お母さん、違うの。私は皐月のテスト見てないよ。」

「いいの。早く来なさい。」

お父さんも来た。いつもはもっと遅く帰ってくるのに。弥生はしぶしぶ、一番近い椅子に座った。

「先生から聞いたわ。皐月ちゃんのテストカンニングしたんですって。ねぇ、弥生、如月くんにノートも書かせてるんでしょ。本当に、親として恥ずかしいわ。」

「あぁ、そうだな。少しは反省したらどうだ?」弥生が微妙に震えはじめた。

「もういいよ!何で私がカンニングしなくちゃならないの?しかも如月くんには、ノートを貸してあげてるんだよ!」

弥生は自分の部屋に駆け込んだ。そして壁によりかかり、泣きじゃくった。

「私は何も悪い事していないのに。みんな最低。皆消えてしまえばいいのに。」

「娘よ。助けてやろう。」

弥生が声のした方をむくと、そこには全身が白色の、黒いマントを被った人がいた。

「あなた、誰?お母さん、お父さん、助けて!」

弥生が立つと黒マントが言った。

「お前を信じる者はどこを探してもいないぞ。」

その言葉で弥生は止まった。

「お前は何も悪い事していないだろ。」

「そうよ。なんで私が怒られなくちゃいけないの?!」

黒マントはニヤリと笑った。

「そう、皆消しちまえばいいのさ。」

「え?」

「皆、消せばいいのさ。このペンで村を一望できる神社の隅にある緑の石に消したい人の名前を書いてごらん。」

「何言っているの?と言うかあなた誰?」

その時、弥生の母の声がした。

「弥生!弥生。早くでてきなさい。」

弥生はいったんドアまで行った。

「もうやめて。来ないで。もう知らない。」

後ろを振り返ると黒マントはいなく、ペンだけが残っていた。

弥生は自分の頭がおかしくなってしまったんだろうかと少し怖くなった。そして落ちていたペンを取るとペンケースにしまった。きっと今のは夢だったんだろうと弥生は思った。

 

次の日の休み時間、教室の中で勉強している皐月のところに弥生は駆け寄った。

「ねぇ、皐月。私のテスト、カンニングしたでしょ。」

「はぁ?なんで私がカンニングしなくちゃならないの?貴女より頭いいのに。」

弥生は、皐月が嘘をついていると直感した。そして学校が終わるとすぐに神社に走って行った。

 

弥生は神社の隅にある緑の石をさがして、持っていたペンで皐月の名前を書いた。

昨日見た夢を再現して、皐月にいじわるしてやろうと思ったからだ。書くまでは本当に皐月がいなくなったらどうしようと思ったが、魔法でもあるまいし、こんなことで人が消えるはずがないと思って、思い切って皐月の名前を書いた。すると、皐月に対して怒っていた気持ちがすっとなくなった。

 

翌日、学校へ行くと不思議なことが起こった。昨日まで座っていた皐月の席がなくなっていたのだ。弥生は「あれ?皐月は今日お休みなの?」と如月に聞いたが

「は?誰だよそれ? それより昨日のノートも貸してくれよ。」

と全く皐月の事に触れなかった。

もしかして・・・。

弥生は昨日自分が神社でしてしまったことが原因なんじゃないかと恐ろしくなって、その日は勉強も手につかなかった。

 

その夜、弥生の家で夕食時に母親がニコニコしながら弥生に話しかけてきた。

「ねえ、弥生?昨日あなた、神社に行っていたでしょう?お母さんもあなたの後ろを追いかけていたのに、全然気が付かないんだもの。そこであなた綺麗な石を持っていたわね。見て、これ?何となくお父さんの顔の形に似ていない?あんまりにも気になって持ってきちゃった。たくさんある石の一つくらいいいわよね?顔も描いちゃったのよ。可愛いでしょ?」

弥生は思わず

「ひっ。お母さん、それダメ!」

と声を出したが、母親は構わず

「本当に、お父さんにそっくりよね。似ているでしょ?あ、記念に裏にお父さんの名前書いておこう!」

と名前を書きだした。

「だめ―!!!」

弥生は必至で叫んだが、その声は空気になって消えてしまった。

弥生は気が付いていた、お父さんがいなくなればその子供の時分まで存在しなくなってしまうことを。

 

気が付くと黒マントがキッチンに立っていた。

「せっかく人を消す方法を教えてやったと言うのに、本人まで消してしまうとは。

本当に馬鹿な人間だな。地球上に増えすぎた人間の数を調整するために神様から仕事を仰せつかって来たのに、たったこれだけしか調整できなかったか。」