【生徒作品】中村 美桜 13歳

【生徒作品】中村 美桜 13歳

「カズオイシグロの中の日本」

イギリス育ちの作家、カズオイシグロは、Remains of the day を出版した。その他にも数冊の小説を書いてノーベル賞を取った。去年の12月にそのノーベル賞授賞式で彼が演説をしたスピーチでは、彼と日本との関係について話されている。

彼は5歳の時に、父の仕事の事情でイギリスに引越し、そのあと大人になっても一度も日本を訪れることもなかった。しかし彼の家庭には日本が残っていたし、彼の記憶には、5歳ながらの日
本の長崎で暮らした時の記憶がずっと残っていた。そこから彼の中で「彼の日本」が膨らんでいった。彼の日本は、いつの間にか「彼の日本」というものが際立ち、実際の日本とは違うものになっていった。そして、イースト・アングリア大学大学院に通っていたある時に、急に激しくせかされるような思いで、日本のことや、自分が生まれた長崎の暮らしや、第二次世界大戦の終わり頃のことについて書き始めた。

そのあと数ヶ月間で、原爆が落とされたあとの長崎を書いた最初の長い小説「A Pale View of Hills」を完成させた。その時、自分が知っている日本を書いて残しておかなければそれはいつか
消えてなくなってしまうという危機感を感じていた。その記憶がぼやけていってしまう前に、どうにかして書き残しておかなければと思ったのだ。そしてその自分が作った日本を安全なところにしまっておこうとした。

「彼の中の日本」はイギリスでもなければ日本でもない、彼の頭にしか存在しない場所だった。だから彼は、Remains of the dayを書くことができたのだ。この本は執事の目線から見るイギリスだ。カズオイシグロがこの話の主人公を執事にしたのは、きっと本当のイギリス人考え方は、執事の生き方の中にあると思ったからだ。彼が子供の時にイギリスに来て気づいたことの1つに、行儀作法の話が挙げられている。彼が見たイギリス人の子供たちは、しっかりとその場にふさわしいマナーを守っていることにびっくりした。それはイギリス人の家庭に育った人には当たり前のことだったのかもしれないが、日本からきた少年には驚いたことで、きっとその衝撃は大人になっても彼の中に残っていたのだろう。彼の小説の中の執事は、行儀作法そのものという存在だ。

さらにカズオイシグロは、自分の中の日本人を強調するように、執事の「無私さ」を徹底的に表現している。執事の仕事を、誇りと品格を持って人生をかけてやり遂げようとしたところが、日本人が持つ武士道の道徳観にも通じるところがある。
彼は自分の中に「日本」を持っていたからこそ、イギリスを観察し、イギリスを客観的に表すことができたのだ。