小説 「新世界が待つ」

小説
新世界が待つ
谷 法之


 時はすでに第五次世界大戦から十年、人々の戦いは今のところ静止している。クォートの人たちは元通りの生活に戻っていたし、サイナードの人たちは戦前のように食べ物を作っていた。ヤークの人たちは工場で人間を作るのを止め、発電所として機能していた。


 クートの国では人間が作られている。そのため、戦争が十年前にあったのに、人口は戦前以上になっていた。五百億いた人間は戦争中三百億に減り、今では世界の人口は七百億人となった。クートが大量に人間を作れるのはヤークがすぐ隣で大量の電気を作っていたということと、国の面積がとても大きかったからである。人間の女性から卵子を取り、その卵を試験管に入れ、特別な液を入れて育てた。胎芽になれば少し大きな試験管に入れて、さらに成長させる。胎児になったらさらに大きな試験管に入れる。この時、この試験管とともに特別なタンパク質が加えられる。そのタンパク質には四種類有り、入れられたタンパク質によってその後出来る人間が決まっていた。最初のタンパク質は研究者たちのように頭の良い人間を作るタンパク質。二番目のタンパク質は研究者ほど頭が良くないが、それでもかなり頭が良く、運動が出来る人間を作るタンパク質。三番目のタンパク質は平凡な人を作るタンパク質。四番目のタンパク質は労働を行う人を作るタンパク質。タンパク質は「母親」が決めることが出来、一番高額なのは一番目、次に二番目、次に三番目で、四番目はただのタンパク質である。このように入れるタンパク質によって今後の人間は決まるが、時には突然変異で四番目のタンパク質で出来た人間が一番目の人と同じくらいの知能を持つことが少なくなかった。


 性の考えもまた昔とかけ離れている。男性の違いと女性の違いは昔とそれほど違わないが、男性の生殖器官は働かないということだけが昔との違いである。男性が生まれる時、生殖器官が働かないようにタンパク質の中にその遺伝子が組み込まれていたからである。

 では性行為はどうなっているのか?実際には娯楽のようなものであって、遊びの理由だけであった。もし生殖器官が機能して、もし違うタンパク質同士が子供を作ったら変異した「人間」が出来てしまうからである。だから繁殖は出来ないが、遊び感覚でもうすでに性行為が成立してしまっている。


 この新しい「子供」たちの教育は昔のような教育方法ではない。今では同じタンパク質で作られた子供たちは一つの部屋の中へ入れる。その部屋の中には大きなテレビが一つだけあり、スピーカーが複数ある。そのスピーカーの中から授業が行われ、子供たちはテレビを見る。授業は催眠術を利用し、“知識”を子供たちへ植えつける。タンパク質によって受ける教育も違い、上級の子供たちは算数や国語、大きくなれば政治や科学などの“授業”を受けることになっている。位が低くなるにつれレベルも落ち、習う科目もだんだん減る。一番下のタンパク質で出来た子供たちは昔の中学レベルの教育までを受ける。簡単な数学と必要最低限の言語を習う。毎年テストを受け、合格した子供たちが次のステップへ進むことが出来る。大抵の子供たちは半分ぐらい問題を間違えるが、政府はそれでも平気でこの子供たちを合格させている。もしテストで九割の問題を正解した子供たちは突然変異とみなされ、次のレベルの教育を受けることになる。

 この子供たちの将来の職もやはりタンパク質によって決まってしまう。位が高いタンパク質で生まれた子供たちは科学者レベルの職を持つ。次のレベルのタンパク質たちは建築家になれるぐらいの人たち。次の人はサラリーマンぐらいの職。一番下の人たちは管理人や教育係になる人たちである。異変があった子供たちは受けた教育レベルによって職が変わる。

 クォートの政府は一人の大統領によって支配され、その人は昔の人の子孫であるという情報がある。大統領は必ず男で、どうやら自分で子供を作ることが可能のようである。この世で唯一性行為で子供を作る人間である。そのため、大統領はまずパートナーを決め、子供を作る。その子供は特別な教育を受け、また次の大統領になるという仕事がすでに決まっているため特別扱いになっている。


 大統領の政治は「すべては国」のためと言い、所得税は50%である。その代わり、医療や電気、水はただである。食べ物もとても低価格で、食べ物は安くて昔の一ドル、高くて五ドルである。金がかかるものといえばエンターテインメントや必要ではないものである。ゲームや携帯は安くて百ドルである。今の携帯は頭の中に埋め込まれていて、電話番号などを登録する時は特別な機会を使う。電話やメールをしたい時はその人の顔を浮かべ、頭の中でダイヤル、指を耳に入れれば他人と会話が可能になる。


 クォートの大統領は現在オカラ大統領である。オカラ大統領にはオハマという子供がいる。このオハマは十歳、パートナーの女性を決めなければいけない年となった。パートナーは一番上のタンパク質で作られた人で、頭がとても良くなければいけない。オハマがパートナーを決める前、そのパートナーとなる人たちはまずテストを受けなければいけない。そのテストに合格した人たちの中からオハマはパートナーを決めることが出来る。そしてパートナーが決まったらその人と十年共に過ごし、二十歳の誕生日に結婚するというルールが有り、これは一度も破られたことが無い。


 オハマは自分のパートナーを決め、その人と十年間過ごした。そして結婚式が決まり、結婚式を開いた。大統領の子供が結婚した時、その子供は副大統領となり、大統領と共に国の政策を作る。



 月日が流れて、オハマが五十になった時、大統領が亡くなった。大統領が亡くなり、副大統領、つまりオハマが大統領となった。オハマがまず最初に行ったのは国民の意見を聞く事である。国民一人一人にアンケートを行い、そのアンケートに基づいて新しい政策を作るつもりであった。しかし、帰ってきたアンケートの答えは四つだけであり、その答えの違いはタンパク質の違いだけであった。オハマはこの答えに驚愕したが、政府内の人やオハマのパートナーはこの事にびっくりしなかった。なぜオハマがこの結果にびっくりしたかというと、オハマの教育の中に“タンパク質で人間を作る”という事は知っていたが、そのタンパク質のグループの知能レベルは同じであるということは知らなかったからである。オハマは結局このアンケートを元に新しい政策を作ることが出来ないまま元大統領の政策を続けることにした。

 オハマのパートナーが驚いたことは子供を作るときの事であった。クォートの大統領は代々“特別”な人間である事はだれでも知っていたが、クォートの人間はなぜ特別なのかは知らなかった。大統領家族が“特別”な人間の理由は性行為を行う事によって子供を作るからである。オハマはその事を知っていたが、パートナーは知らなかったようである。数ヶ月が経ち、オハマのパートナーの腹は大きくなってから、パートナーはオハマにこの事を話、パートナーは何とか理解した。そして十ヶ月後、男の赤ちゃんが生まれた。その情報は国民に流れ、新しい生命の誕生を祝福した。

 オハマが大統領になってから二年後、オハマは毎日に不満と不安を感じた。「自分に何が出来るか?」「今後の未来をどう変えられるか?」という質問を毎日自分に問いた。結局その問題への答えを自分で導き出すことは出来なかった。ある日、環境を研究している研究者たちがある小さな地域で人間が暮らしているというレポートを新聞に載せた。載せた理由はこの人間たちの技術レベルが低く、使っている機械や住んでいる環境が昔の人間社会そっくりだったからである。

 研究の発表から一ヶ月後、また新しい発見が発表された。その発表は子供を作る方法は昔の方法のままであるということである。今のように人工的に人間を作るほどの技術を持っていないことが分かった。この研究結果を読んだとき、オハマの第六感が働いたようにオハマは何かを感じた。オハマはすぐ研究者たちにその「昔人間社会」の場所を聞き、その場所へ行く準備をした。そこの人たちと話をして、自分に問いかけていた問題への答えを見つける「旅」にでることにした。


 次の日のスケジュールを変えて「昔人間社会」を訪れることにしたオハマは、テレポーテーションでその村へ行った。その村は昔の東京スカイツリーのようなものが一つ、高層ビルが沢山、そして本の中にある昔の家のようなものが沢山あった。オハマはある高層ビルの中へ入ったが、中は想像していた所とは違う場所であった。白衣を着た人たちがたくさんいて胸のピンには「東京創生病院」という文字が書いてあった。「ここは昔の病院か」とオハマはつぶやいていたら「どうかなさいましたか」と白衣を着た一人の男性が尋ねた。病院名の横に「看護士」という文字があった。

 「私はクォートの者であるが」とオハマが言った瞬間、その男性は怖いめつきでオハマを睨んだ。
「私たちはあなたたちクォートのような非人間たちから逃げるためにわざわざ大都市から離れたんだ。子供を科学の力で作り、その子供たちをまるで商品のように扱うあなたたちの考えについていけなかったからこの場所に住むことにした。科学の力に溺れた人間から逃げるため、ここに今住んでいる」

 「私はクォートの人間であるがあなたたちと似ているようなところがあると思う。私はクォートの大統領、オハマだ」とオハマは説明した。その一言だけで状況は変わった。

 「なら…問題は無いかもしれない。あなたは私たちと同じ「人間」のようだ。あなたは知らないかもしれないがクォートの大統領になれる人は我々のような『人間』だけであるということである。あなたはそのクォートの人たちと少し違うということは分かっているだろう?体の仕組みは似ているが、あそこの人間の体と違う体をあなたは持っている。その体は私たちと同じ体だ。『昔の人間』とあっちの人は言うが実際はまともな人間の体を持っているのはこっちの人間である」
 「なぜこのような環境に住んでいるのだ?」オハマは聞いた。
 「第四次世界大戦がすべての始まりらしいと父や母に聞いた。聞いたことはクォートという国は元々この村のようなところだったらしい。違いはもっと近代的であるところぐらいかな。しかし、第四次世界大戦があった時、兵の数が少なかったため、兵を無理やり増やすために人工的に人間を作る方法を考え、たどりついたのが今の試験管法らしい。そしてその時代の大統領は独裁者らしく、自分の家族や周りが力を持つためにほぼすべての国民を試験管から生み、マインドコントロールを行ったんだ。あんたがこれを知らないのはあの国の歴史はすべて書き換えられているからだ」

 オハマはこの事を聞いてショックだった。自分の人生が操られていたということを知らなかったからである。話を聞いた後、オハマは病院を去り、クォートに戻った。結局、答えを見つけるつもりの旅が問題をただ作るだけの旅になってしまったということに大きなショックを受けた。いまさら歴史を変えても国民は考えを変えることは無いと知っていたからである。

 オハマは疲れた。自分の人生毎日が憂鬱になってしまった。表では良い大統領で笑顔が絶えない人であるが、表から降り、家やホテルへ戻るとその笑顔は消えて、憂鬱な顔のになる。そのままアルコールを飲み、その場をしのぐ日々が何日も続いた。そしてある日、現在の国民の持つ情報を変えることは不可能と考えたオハマ大統領は、次世代の子供たちの教育を変えたいと教育係に話した。しかし、そのようなことをしてはいけないと先代の大統領が法律を作ってしまった。

 「その法律を変えたい」とオハマ大統領は言ったが教育係は、
「法律に基づいてそのようなことは出来ません。もし変えるのなら議会で過半数の票を取り、可決しなければいけません」と言った。


 議会は合計で561人で出来ている。その過半数となると281人以上の票を得なければいけないことになる。むろん、現代の教育を受けたこの議会の人たちは元々の法律に問題は無いと考えているため、オハマ大統領が出した新しい法案は否決となった。

 「自分は大統領なのに無力なのか」と毎日思う大統領はついに薬専門の科学者にある薬を作るよう依頼した。その薬は憂鬱な気分を無くし、元気になれる薬を作ってくれという依頼であった。その薬は昔の大麻のような薬で、飲めばすぐ元気になり、笑顔が耐えない状態になるが、効力が無くなったら効果があった時間と同じぐらい憂鬱になってしまうという欠点がある薬であった。この欠点だけは消えず、気分を少し良くするための気休めの薬であった。「ライマ」という名を持ったこの薬はクォートで爆発的人気があり、大抵の大人は所有しているほどの薬になった。結局は昔の麻薬と同じようなものであるライマは「危険」というラベルが貼られた。さらに作った科学者たちも「とても危険で、実際に人間に与えるべきものではない。これはただとても憂鬱な人専用の薬だ。」というほどの薬であった。しかし、大統領が作ってくれと命令した薬で、さらに大統領が使っているということからクォートの人たちは安全で自分たちが使っても大丈夫だと考えていたため、ライマを使うことは違法でないという法律が作られた。

 オハマが五十四の時、子供が生まれた。その子供の名はオバラで、オハマとオハマの父を一緒にしたような顔を持つ少年であった。オバラ少年はとても活発な少年でとても頭が良い少年であった。オバラの教育係の人はいつも良いコメントだけを残し、大統領にはもってこいの逸材になると言っていた。そして、オハマは自分が思う「正義」や正しいこと、人間についてや自分の思想をすべて教えた。オバラは自分の父が話したことを教育係の人に話すと、教育係の人は、
「大統領は特別な人だから、その人の話をちゃんと聞くことは大事だけど、そのようなことはすべて信じなくて良いのですよ。お母さんにその話をしても多分通じないと思います。なぜならあなたのお父さん、大統領はとても特別な人だから」と言った。
 結局オハマが子供に伝えたかったメッセージは届くことは無かった。

 オハマ大統領は毎日ライマを取ることになった。そして、その結果「ライマ中毒」という病気になった事が判明して、治療を行うことになった。治療法はライマから離れた生活を送らせるということである。このニュースはメディアによって大きく取り上げられたが、その報道でオハマの支持率は落ちることは無かった。なぜならクォートの大人全員がライマが好きで、大統領として国民に褒美を与えたというイメージが国民に植え付けられたからである。治療が終わった後のオハマは変わり果ててしまったが、それでも支持率は落ちることなく大統領として仕事をこなした。


 ある日、オハマはまたあの村へ戻る事にした。もしかして自分の憂鬱を消すなにかがあるかもしれないと考えたからである。オハマはライマ中毒から開放され、今ではライマを一ヶ月に十錠飲む程度にまでになったが、時々豹変するときもあった。そして、オハマはまたあの病院にたどりつく。

 病院に着いたオマハは前の看護士と再会することが出来た。だが、その看護士はオハマの顔を見た瞬間、顔が青くなった。中毒でおかしくなってしまったオハマは有名だったため、看護士はオハマが病院にたどり着いたことにびっくりして、「この人は頭が狂っている」と思ったからだ。
「どうかされましたか」と質問をした看護士。
オハマは「もう疲れた。この村で少し休みたい。ライマは一つも持ってきていないから大丈夫」と看護士に答えた。
それを聞いて看護士は少し安心した。そして一週間その村で過ごし、楽しい毎日を過ごした。その過ごした時間を自分の秘書やパートナーに話した。自分の子供にもその話をした。

 月日が流れ、オハマが六十になった時にクォートは大きな問題に包まれた。オハマ大統領が逃亡して消えてしまった。クォートは混乱状態になったが、一番頭が良い科学者が新しい大統領となり、国を引っ張っていった。

 オハマはこの時、どこへ逃げたかというと「昔人間社会」の村である。自分の居場所はそこにしかないと考えたオハマは一人だけでその村へ行き、人生の最後を過ごしてのである。


 時代に疑問を持つ人間はかならず出てくる。答えを導き出せるかはその人次第。後百年もすれば、このような時代が訪れるのか?考える価値はあると思う……