小説 「スパイ」

小説
スパイ
谷 法之


 人間の世界は簡単な世界ではない。むしろ、とても難しく入り混じっている世界である。例えるなら政治である。表、世間、社会では良いイメージを持っているが裏では「悪い」顔を持つ政治家は沢山いる。ただメディアによって世間に出回っていないだけである。この「裏」の世界は政治だけではなく、他の「世界」にもある。決して触れてはいけない「裏」の世界はスパイである。この世界はとても複雑であり、表に出てはいけない世界である。

 1935年、一人の少年がアメリカの地を踏んだ。その青年は白人と黒人のハーフ、その時代は珍しい「人間」であった。ヨーロッパから来たこの少年、裕福でもなければ貧相でもない。ごく普通の少年である。中学校を卒業してから三年、高校最後の年にアメリカに「留学」することになった。親の影響でもあるが、違う理由もあった(その話は後に出てくる。)アメリカの飛行場にたどり着いた少年。ニューヨーク州にたどり着いた少年。この少年の人生はもう後戻り出来るような人生ではなくなった最初の日が訪れた。


 ニューヨークの飛行場を出て、最初にカフェへ足を運ぶ少年。この日は唯一の「希望」と「自由」があった日だった。初めて頼んだコーヒー。初めて飲んだコーヒー。ちょっと苦い味はしたが、この少年は嫌いではなかった。時間はすでに午後の8時であった。長い飛行時間だったため、少年はとても疲れていた。親が用意したホテルに向かった少年は始めてホテルに泊まった。初めてのホテルのベッドは彼の家のベッドと比べてとても気持ちが良かった。この短い幸せな日を彼は一生忘れる事が無かった。

 少年が寝てから九時間がたった朝の七時、少年はドアの音で目が覚めた。「ドンドンドン」という大きな音だった。少年はこの音を聞きたくなかった。なぜなら少年はこの日を一生こないようにと願っていた。この日、この朝が彼の人生を大きく変える日だったからである。

 「ドンドンドンドン」とドアを叩く音は大きくなってきた。少年は恐怖に包まれてきた。ついにドアは開いてしまった。結局ドアを叩いたのは少年を起こすためであった。「起きろ。準備をしろ。十分後には下に来い。」黒いスーツの男は少年に言った。

  少年は黒いスーツの男が言ったとおり七時十分にホテルのフロントにいた。スーツの男を見つけた少年はホテルを一緒に出て、黒い車に乗った。そして、密室の空間は緊張の空気でいっぱいだった。「今から喋ることは絶対だれにも喋ってはいけない。そして我々のことも喋ってはいけない。」車の中は少年、黒いスーツの男、白いスーツの男、そして灰色のスーツの男4人、計七人が車の中にいる。「この紙を読め、分からないことがあったら今聞け。と言ってもここに来る前にあっちで説明したよな。覚えているか?」少年は軽くうなずいた。「お前は今からスパイとしてアメリカの極秘情報を調べてもらう。国と組織がお前を選んだ理由はお前がとても頭が良い事だ。お前の親もお前がスパイになる事は分かっている。と言っても私がこのような事を言うのは時間の無駄だな。お前の親はこの計画を私たちと一緒にお前に説明したからな。心配するな、お前はそれほど年を食っていない。だからそれほど怪しまれないだろう。それに頭の回転が早いお前はその状況によって良い答えと言い訳を作るだろう。お前のこの後の人生の心配もしなくて良い。国と私たちの組織はお前が安全な生活を過ごせるように百パーセントサポートする。後のことは考えなくて良い、だから今のことだけを考えてくれ。この計画が成功すれば、私たちの国は良くなるし、この世も安全になるだろう。」黒いスーツの男は少年に言った。しかし、少年の緊張は高かった。無理もない。このような事を経験するのは一握りの人間だけであう。ましてやまだ二十歳にもなっていない少年がこのような経験をする事はとても大きなことである。全てが初めてだった少年。そして、今日から二ヶ月、彼の毎日は緊張の毎時間であった。

 少年の仕事先は新聞社。新聞社で働く理由はまず情報を入手することであるが、その情報の元を見つける必要がある。そのため一ヶ月から二ヶ月の間情報源を見つけるために新聞社で働く事が少年の仕事であった。ニューヨークが選ばれたのはアメリカの情報の中心だったらからである。少年はニューヨークタイムズで働く事になった。黒いスーツの男は「カリフォルニアから来た少年」という形で少年を新聞社に入れることに成功した。

 「いいか、二日に一回このレストランで集めた情報を教えてくれ。時間は午後の八時だ。その日の夕食は奢ってやるから食べなくて良い。」黒いスーツの男は車の中で最後に言った。

 ニューヨークタイムズ社から徒歩十分の所にあるアパートに少年は寝泊りすることになった。部屋にはベッド、机、そして冷蔵庫だけしかない。少年は長い間アメリカに暮らすつもりが無いため、必要最低限のものしか「組織」は用意していなかった。少年はわずか十ドルしか持っていないため、なにも買うことが出来ない。その代わり、「組織」が全て少年の欲するものを買うということになった。

 ニューヨークタイムズでの最初の日、会社を全体に知るための日であった。少年の上司であるジョージは会社の中をすべて少年に見せた。そして、会社の中身を見た後、少年はジョージに「どうやって新しい情報を入手できるんですか?」と聞いたジョージは

 「それは特別だからまだ教えられない。だけど今から与える仕事が正しく出来て、問題なく出来たら教えてやる。その心配は今しなくて良い。」

とジョージは答えた。この答えに少年は少し焦った。時間はない。タイムリミットは二ヶ月。早く情報源を知らなければ計画は失敗になってしまう。ジョージの答えによって、少年は毎日ジョージの出す仕事と他の上司が出す仕事を完璧にこなした。少年の仕事は雑用、書類を見つける、新聞のレイアウトなどで、ほぼ毎日違う仕事であった。

 次の日、少年の仕事は新聞のレイアウトであった。少年は記事を見て、その長さからどこにどの記事を載せるべきかを「上の人」と話した。「良いアイディアだな」上司がそう少年を褒めた。少年は若い頭の発想と斬新なアイディアでレイアウトを作り、上司を喜ばせた。その日が終わるころには少年はとても疲れていた。ジョージは少年を見て、「がんばれよ」としか言わなかった。少年はこの言葉が聞こえなかった。なぜなら次の日の新聞のレイアウトも頼まれていたため、次の日のレイアウトの簡単なやつを作っていたからだ。ものすごい集中力で作り上げていたため、少年はジョージの「がんばれ」という言葉が聞こえなかった。

 二日目の夜、少年は黒いスーツの男にレストランで出会った。「何か情報をつかんだか?」と黒いスーツの男は聞いた。

 「なにもないよ。まだ二日目だし、簡単な事しかさせてくれないよ。このハンバーガーとポテトフライたべたいなぁ」と答えと自分の欲求を言った。ウェイトレスが来た。

 「ハンバーガーとポテトフライ二つずつ下さい。」と黒いスーツの男はウェイトレスに言った。ウェイトレスがいなくなった時、「しょうがないな。とにかくできるだけ早く情報源を見つけるんだ。時間はあまり無い。もしそのような仕事が一ヶ月続いたら、私たちは無理やりニューヨークタイムズに行き、情報源を調べる。この方法は危険だから、できるだけお前が情報源を教えてももらえ。お前が情報源を見つければ、怪しまれないまま情報を入手できる。」と男は言った。

 「分かっている。今はとにかく与えられた仕事だけをしているから、そのうち違う仕事も来るだろう。ただ今は新聞社の全体を知るためにこのような仕事を押し付けているんだと思う。」と少年は男に言った。

 「そうかもな。とにかく早くこの計画が終わることを祈っている。」と男は少年の言ったことに付け加えた。そしてハンバーガーとポテトフライが来た。二人ともよほど腹が減っていたのか五分足らずで全てを平らげた。そして店を出て、男は闇の中へと消えていった。少年は男と逆の方向へ行き、住んでいるアパートへ向かった。

 そして日にちがどんどん過ぎていき、少年の仕事も変わっていった。ニューヨークタイムズで働いてから二十五日が経った。今では編集する内の一人に選ばれた少年はすべての上司に目がつけられていた。「あの少年なかなかやるなぁ」「とても仕事熱心だなぁ」などの声が聞こえる。

 二十六日目、一ヶ月まで後四日前、少年の朝はある変化を迎えた。「今日から君は彼と一緒に記事を書いてもらうよ。書く記事は全米の大きなものからローカルの小さなものなど。政府が絡んでいるような記事も、君たちに書いてもらうからね」と社長に言われた。「彼は政府の人たちを何人か知っている。だから彼はいつも政府が何を行っているかを知っている。ただ、私たちが記事に何を書くかを判断している。それでは明日の記事を頼んだよ。」と社長は言った。

 「じゃあ今からあるレストランに行き、政府の人と話をしよう。」と少年の新しいパートナーのショーンは言った。二人が行ったレストランは真っ赤なレストランで、食べ物がおいしいと評判があるレストランであった。そこには政府内で働く二人が少年とショーンを待っていた。

 話の内容が実に簡単なものであった。国の経済を回復させる方法、国民たちを喜ばせる法案などであった。他にも話はしたが、これといって特別な話は無かった。しかし、レストランを出る十分前になって、話の内容は一気に変わった。話の内容はヨーロッパの軍事力の変化と各国の軍事強化になった。この話は新聞の記事には載らなかったが、少年とショーンはこの事を詳しく聞き、ノートに書いた。

 レストランを出た後、ショーンは少年に、「このことは誰にも話すなよ。少なくとも、新聞社の関係者以外には話すなよ。」と言った。しかし少年の頭の中は間逆であった。その夜、少年は黒いースーツの男と再び会う事になった。そしてその日起こった重大なニュースを教えた。すると男は「そいつとできるだけ近くなれ。私たちの情報によると政府の中に我々をサポートする裏切り者がいるらしい。話してた内容からすると、そいつのような気がする。合言葉は『ブラックアイ』だ。そいつに『合言葉はブラックアイ』と言えば通じるはずだ。」と言った。

 次の日、少年はその政府にいる「裏切る者」に会う事ができた。『合言葉はブラックアイ』と少年はその政府関係者に言った。すると「裏切り者」の目は光らせた。「君が組織の人間か、情報を渡すからこの場所に夜八時になったら来てくれ。」と言い、小さな紙切れを渡した。その紙切れには地図が書いてあり、あるレストランを示した。前のレストランと違うやつであった。少年はその日の夜、そのレストランへ足を運んだ。そこにはもうすでに裏切り者がいた。

 その夜は自己紹介程度の話であった。これといった情報は無く、本当の名前と住所、自分のいる組織、裏切りの理由などであった。

 次の日の夜、少年は黒いスーツの男と七時にレストランで待ち合わせた。会った瞬間、少年は「今から情報源の人と話しに行くから一緒に来て下さい」と言った。ちょうど一時間後、裏切り者のレストランに到着した。状況を把握した裏切り者は全てを話した。そして黒いスーツの男は「今後もよろしく頼む。」と言い、自分の住所を渡した。

 そして一月が過ぎ、二ヶ月たったある日、少年は社長室に行き、「今日でニューヨークタイムズをやめさせていただきます。カリフォルニアの父の具合が悪くなってしまったため、行かなければいけません。」と言った。社長はさみしそうな顔をした、「しょうがないか」とつぶやいた。少年の危ない二ヶ月が終わった。少年のスパイとしての仕事はもう終わった。

 この日を最後に少年はアメリカを去り、自分の国に戻った。国に戻った少年は違う名前で住むことにした。国が彼を危ない目に合わせないために、そう判断したからである。今では彼の過去は消えてなくなった。しかし、彼の中にはその過去は消えない。あのベッドの感じ。あのコーヒーの味と香り。あのハンバーガーとポテトの味。この経験したことは少年の中から一生消える事がなった。

 スパイをして活動することは難しい。裏と表の自分を作ることが大事であり、決して他人に知られない事がもっと大事である。毎日が危険で命も狙われているかもしれない。しかし、人間社会はこのような「職業」を生んでしまった。闇は決して消えない事が人間社会の「負」である。